ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー  ×  ナ イ ト ラ ン ド

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 既に視界に入っている蒼天の騎士隊本部のある隊舎本館を目指し2人が歩いていると、左手にとてつもなく大きな門、蒼天の門が見えて来た。
 高さは軽く20メートル以上、幅も10メートルはあろうかというこの巨大な門は、この駐屯地で区画されている蒼天の騎士隊の玄関口として悠然とそびえ立っている。
 ここウェザー騎士団の駐屯地には、区画されている各騎士隊毎に巨大な門がそびえ立ち、この蒼天の門を含めて四方に配置されているのであった。

「で、今は隊の方はどうしてるんだ?」

 両腕を頭の後ろに組みながら歩く青年が、蒼天の騎士隊の近況をサッチャンに尋ねる。

「はい。陽射ひざし日向ひなたの2個部隊はバネッサ副隊長の下で、隔絶縁結界かくぜつえんけっかいの陣構築演習を2週間程前から行っているんですが、昨日からの3日間は休養日となっています」
「そっか。演習にはあいつも参加してるのか?」
「いえ、榊剣一は演習場へは同行していますが、今回は集団で連携して行う訓練と言うこともあり演習には参加していません」

 サッチャンの報告にも「ふーん」と、興味が有るのか無いのか分らない返事をする無頓着な性格が垣間見れる青年。
 しかし、剣一の事を尋ねるあたりから察すれば、やはり少しは気に掛けているのだろう。
 なにせ、薄命海岸で倒れている剣一を見付け、この蒼天の騎士隊へと運び込んだのは青年自身であるのだから。

「隊長、彼は凄いですよ! 私の見ている限りでは、ずっと1人黙々と剣を振るっているんです。来る日も来る日もそれこそ眠る時以外はずっとです」
「へぇーーー」と、言葉では頷いているが、青年は余り興味を示していないようだ。

「バネッサ副隊長は、あれが彼の日常だと言うんですが、まるで鬼気迫るって感じの様子で、隊員達の多くが怯えとまでは行きませんけど、完全に気圧されているような状態なんです・・・」
「っえ、なになに!? もしかしてサッチャンもビビっちゃってるんじゃないだろうな?」
「わ、私はビビってなんかいませんよ! ただ関心してるんです!」

 慌てたように取り繕うサッチャンの顔を、青年はニヤ付いた顔で横目に見る。

「もう、変な目で見ないで下さいよ! チビッてもいませんから!」
「ふぅ~ん。サッチャンさぁ、チビるとかまだ言ってるのか? 恥ずかしいから止めなよ」

 青年の指摘に顔を真っ赤にするサッチャンは「ハァーーー」と、とてつもなく大きな溜息をしてみせるのであった。

 そんなサッチャンはいつもの青年の返しに、気を取り直す事が高速化して来たのか、何も聞かなかった事にして口を開いた。

「バネッサ副隊長が言ってましたよ。修練に励む彼の姿は、まるで以前の隊長みたいだって!」
「・・・・・・・」黙り込んでしまう青年に、サッチャンが追い討ちを掛ける。

「私は必死になって修練に励む隊長の姿なんて、一度も見た事がありませんけどねー」と、嫌味たっぷりに言い放つサッチャンなのであった。

 バネッサからサッチャンへと、自分に関する情報が随分と流れていると感じた青年は決まりが悪そうにしていたが、すぐに立ち直る。

「じゃあ、榊剣一のやつは今日も1人でやってるのか?」
「あっいえ、流石にバネッサ副隊長も見かねて休養日は休むようにと強く言ったんですが、彼もけっこう強情な性格のようで・・・」

 それ聞いた青年は「プッ!?」と思い切り噴出してしまうのであった。

「今日は無理やりという形ですが、この世界に早く慣れる事も大事だと、コールとアッシュの案内で帝都の散策をしているはずです」
「そっか、分った」と青年が頷いたその時である。
 帝都アクシルの上空に、昼間に打ち上げられる音花火の号砲や段雷による白煙が幾つも上がると、遅れて大きな音が何回も続くのであった。

「なに、なに!? 今日って何かの祭りだっけ!?」

 青空に響き渡る昼花火の破裂音を聞いた青年の表情は、あからさまに舞い上がっているのであった。
 青年で無くとも昼間に聞かれるあの花火の音は、誰しもを童心へと返らせる力があるのだ。
 それは青年の隣を歩くサッチャンでも、心の中では例外ではない。

「今日は帝都誕生と繁栄を祝う記念式典があるみたいで、数日間は帝都中でお祭りのようですよ」
「本当かよ!」

 祭りと聞いた青年は、体一杯にソワソワとし出す。

 サッチャンは一人盛り上がる青年に見向きもせず、一瞬だが目を瞑りウンウンと頷きながら青年に忠告をする。

「隊長、駄目ですからねー、今日はバネッサ副隊長の待つ隊本部にちゃんと行って貰いますから!」

 そう言うサッチャンの言葉を青年は完全に無視していた。
 そして隊舎本館へと続く屋外回廊から外れ、左手の方向へと歩みの進路を大きく変えているであった。

 驚く事に青年はサッチャンの一瞬の隙を付いたように、何か特別な歩法でも使ったのか、既に駐屯地から外へ出る為の門に向かってサッチャンの位置から20メートルは先を歩いている。

「っえ!? ぇえーーー!? いつの間に!? って、ちょっ、隊長! 処へ行くんですかーー!!」

 目的地である隊本部を目前にしての思いもよらない青年の行動に、サッチャンの慌てた声が青年を追い掛け背中を叩く。
 青年はノタノタと歩きながら背中越しに右手を揚げると、その手をヒラヒラと振りなが呑気に答えた。

「せっかくの祭りなんだしー、俺も街の散策をしてくるよー」
「・・・・・・!?」

 サッチャンは蒼天の門へと向かって歩く青年を、追う事も考えられずにただ唖然として見送っていた。
 そして蒼天の門に向かい小さくなって行く青年の後ろ姿を見詰めながら、サッチャンは一人小さく呟いた。

「さ、散策って!? これから隊本部へと戻るんですよねぇ!?」

 一人呆然と立ち尽くすサッチャンを嘲笑う初夏の風が
( ヒューーラララーーーーー )と、心地よく吹き抜けて行くと、サッチャンのポニーテールに結われた髪が力無くなびくのであった。

「開門ーー!」

 警衛の任に就く騎士の開門を指示する声が響き渡ると、蒼天の門扉が静かにゆっくりと重々しく開いていった。
 青年は扉が開き終わるのも待たず門を潜り抜けて行く。
 そんな青年を唖然と見送るサッチャンであったが、ふと我に返ると大変な事に気付いてしまうのであった。

「・・・逃げられてる!?」

 ワナワナと体を震わせ頭の上に握り拳を作ると、サッチャンは嘲笑った風を蹴散らし、全身に纏った鎧の擦れる音を鳴り響かせながら、猛然と青年を追い駆け出すのである。

「こらぁ、待てぇー! ジーーニアーーー!!」

 青く澄んだナイトランドの空の下、サッチャンの怒鳴り声が青年を追い掛け叩きつけるようにして轟き渡るのであった。


 サッチャンに隊長と呼ばれていた青年の名は、ジーニア・ブレイブ。
 世界3大騎士団に数得られる、ウェザー騎士団、その4個騎士隊の内の1個騎士隊、そう彼こそが蒼天の騎士隊の隊長である。

 サッチャンの怒鳴り声を遠く耳にしながら大きく天を仰ぐジーニア。
 目の前に広がるのは、どこまでも蒼く澄み切った大空。
 体一杯に燦々とした日の光を受け、ジーニアは眩しそうに目を細めたが、口元には笑みがこぼれていた。

「御天道様が張り切ってやがるなぁ」

 眩しそうに片目を瞑りながら、大空から大地を突き刺さすようにして輝く3つの太陽に右手をかざす。
 ジーニアが深呼吸でもするかのように胸を大きく反らし空を仰いだ。
 そして、大空を支えるようにして、両腕を目いっぱい広げてみせるのである。
 ジーニアの顔には、満面の笑みがこぼれている。

「へへっ、今日も青空がいてぇーや!!」

 そんなジーニアの言葉に応えるように、3つの日輪から降り注ぐ陽光は、若き騎士隊長を包み込むようにして降り注いでいるのであった。






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