ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー  ×  ナ イ ト ラ ン ド

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 帝都アクシルの周囲に広がるのは、何十本もの巨大樹を抱き支える自然豊かで長閑な大草原地帯である。
 こんなにも穏やかな空間において一触即発の内に、とある戦火が切られようとしているなどと誰が思うのだろうか。
 先程のクエルノの巨長の角による盛大な暴挙の件に加えてまたしても、せっかくの憩いの場で過ごす動植物達からすればほとほとにいい迷惑な話であるに違いない。

 サッチャンがクエルノを盗人呼ばわりする事から始まったこの取るに足らない唐突な状況であるが、何故このような流れになってしまったのか理解に苦しんでいるのは、サッチャンから剣の切っ先を向けられている当事者のクエルノだけでは無かった。

「・・・何なんだよ、この状況は!?」と唖然としながらも呟くジーニアもまた、突然に訪れた目の前の光景が一体何なのか、まるで理解出来ないでいたのである。

「ちょっとちょっと、サッチャン! 急にどうしちゃったんだよ! 相手はへなちょこのクエルノなんだぞ」
「・・・・・」
「へなちょことは何だ! こんにょヤローのジーニアちゃん!」

 ジーニアの問い掛けにもサッチャンは沈黙を決め込んでいるが、いつもの事ながらクエルノは即座にジーニアの言葉に噛み付くのであった。

 ジーニアに対するクエルノの反感の声を捨て置くのはいつもの定規としても、頑なに口を開かないサッチャンはジーニアの問い掛けにも答えようとする気配すらなく、抜き身の剣を構えたままクエルノと激しく睨み合っている。
 穏やかで暖かな陽気の中だというのに、クエルノに向けられたサッチャンの構える剣からは、まるで凍て付いた殺気が白く立ち昇って行くようだ。
 そんな冷淡な剣の切っ先が、グイッとクエルノの命への距離を縮めると、これには流石に慌てたクエルノが口火を切るのである。

「あ、あたしと本気でり合おうって言うんだなっ! こんにょヤローのサッチャンちゃんよぉー!」

 幼い人間の子供よりも小さな体をしたクエルノではあったが、これでも数々の戦場を渡り歩いて来た身だからであろう、一時の動揺はすぐ様に覚悟へと切り変わっていった。
 剣の切っ先を向けられたままのクエルノは、真っ直ぐにサッチャンの凍て付くような殺意を秘めた瞳を見据えたまま、ペチペチと自身の両腰の辺りを必死になって手探りをしている。
 このクエルノの行動をサッチャンはすぐに察すると、冷たい眼差しを向けたまましれっと指摘をしてやるのだ。

「いったい、何をお探しなんですか? 剣なんて元々携えてなんかいないじゃないですか」
「っえ!?」

 虚を衝かれたような表情を見せるクエルノは、サッチャンに言われてようやく自らが帯刀していない事に気付くのであった。
 そして、その事を誤魔化すかのように威勢を張って見せるのである。

「あ、あたしはなぁ! ナイトランド最強の騎士団の切り込み隊長なんだぞ! こんにょヤロー!」
「へぇーそうなんですか。で、剣も無いのにどう切り込んで来るつもりなんですか?」

 自らをナイトランド最強騎士団の切り込み隊長と名乗るクエルノを、サッチャンは鼻で笑いながら冷たくあしらうのであった。
 サッチャンの見下す笑みに腹を立て「くっそぉーー!!」と声を漏らすクエルノではあったが、幾ら剣を携行していない状況であろうともクエルノにだってプライドはあり、ここで引く気など微塵も考えてはいないのである。

「剣なんか無くったって、あたしには立派なこの角があるんだ!」

 クエルノはサッチャンの構える剣の切っ先に真っ向からにじり寄って行くと、頭部に生えている円弧を描いた自慢の虹色に輝く角を勢い良くぶつけるのである。

 帝都アクシル周辺に広がる大草原に、クエルノの角とサッチャンが握る剣の刀身が擦れ合い、キィーンというなんとも涼やかな音色が響き渡った。
 しかしながら響き渡るその開戦の音色は、始まりを告げるものではなく、終わりを告げるゴングとなったのである。

「はい、はーい、そこまで!」の声と共に、すぐ側で事の成り行きを見守っていたジーニアが、クエルノとサッチャンの間に割って入る。

「どっかの最強騎士団の切り込み隊長さーん。もう、終わりですよー」

 戯けた口調のジーニアがクエルノの角を右手で素早く掴むと、そのままひょいっと片手で持ち上げてやる。

「離せぇー! こんちくショーのジーニアちゃん!」

 自慢の角をジーニアに掴まれ再び宙ぶらりんとなるクエルノが、ジタバタと派手に暴れるのであった。

 一方、サッチャンはと言えば、暴れ狂うクエルノの姿を視界の端に入れながらも、ジーニアに素手で握られている自身の剣の刀身を凝視していた。
 クエルノとの確執でサッチャンは機嫌を損ねている事もあるのか、刀身を握るジーニアの左手が傷付いてしまう事もお構い無しに振り解こうと渾身の力を両腕に込めるのであったが、

「・・・っな!?」

 小さな驚きの声を上げるサッチャンは、自らの剣をピクリとも動かす事が出来ないでいた。

 一体どれだけの力で自身の剣が押さえ付けられているのかと、驚くサッチャンの視線が剣からクエルノと戯れるジーニアへと向けられて行く。
 実の所、サッチャンは自らの剣の刃を平然と素手で握り締めるジーニアの事を前々からずっと内心恐れていた。
 それは先刻において、クエルノの常軌を逸脱した巨長の角を難なく片手で受け止め、そのまま握り砕いた事もそうなのだ。
 目の前にいるジーニア・ブレイブという青年が、一体どれだけの能力を秘めた人物であり騎士であるのかを、任務を共にした事が無いサッチャンは、まだまだ何も知らないのである。
 これはサッチャンにだけ言える事ではなく、蒼天の騎士隊の中においても陽射部隊や陽向部隊の騎士隊員の大半はジーニアと任務を共にした事が無い為に、その実力の程は把握仕切れてはいないのであった。
 ただ一つ確実に言える事は、ジーニアがいつもぐうたらしてるだけのただの青年であるのならば、ナイトランドにおいてアークシール超帝国騎士団と並び称されるウェザー騎士団、その蒼天の騎士隊の騎士隊隊長の座になど就ける訳が無いという事こそが、揺ぎ無い現実なのだ。

 ジーニアはこのような自身に向けられるサッチャンの心の内など知る由もなく、ただサッチャンの此度のクエルノに対する唐突な言動に怪しむ眼差しを向けながら、その訳に探りを入れてみようと試みるのである。

「2人共、いい加減にしろよ。クエルノはいつも通りだとしても、サッチャンは一体どうしたんだよ。何か企みでもあるのか?」
「い、いいえ、私はただ盗品なのではないかと純粋に問いただしただけです」

 少しの動揺を見せるサッチャンであったが、その返答にすかさずクエルノが大声で反応するのである。

「こんにょヤローのサッチャンちゃん! まーだあたしを盗人呼ばわりするのか!?」

 クエルノは喚きながら短い手足を一層激しくバタ付かせるのであった。

「待て待てクエルノ! そんなに暴れるな。いい加減にしないと、このまま地面に叩きつけるぞー」
「っえ!?」

 乱暴な事を言ってはいるが、ジーニアの口調は至って穏やかなものであった。
 しかしその言葉に驚いた表情を浮かべるクエルノは、大きな口を真一文字に結ぶと素直にピタリと暴れるのを止めるのである。
 クエルノはジーニアが冗談で言っているのでは無いと分かっているのだ。
 クエルノはサッチャンが恐れるジーニアの底知れぬ能力の全てを知る数少ない存在であり、ある意味においてはジーニアにとっての最大の理解者でもあった。

 そんなクエルノとサッチャンによる不毛な争いをいつまでも放って置く訳にも行かないジーニアは、サッチャンに執拗に迫られるクエルノの盗人疑惑を晴らすべく渋々と語り出すのであった。







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