ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー  ×  ナ イ ト ラ ン ド

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 世界に時間が戻ったという事は、王雀もまた当然自身の時を取り戻しているのであった。
 王雀は攻撃の手を休めてはいるものの、その体から激しく発せられる炎熱はバネッサとレムを煽っていた。
 そして突然現れたレムの姿を、王雀はジッと観察するようにして見詰めているのである。

 レムはそんな王雀の視線を気にする素振りも見せずに、炎熱と雨風を凌ぐ様に額に右手をかざし、闘技場内で起きている状況に興奮しながらキョロキョロと視線を動かしている。

「豪雨に雷鳴って、何このシチュエーション! 死闘の真っ只中っていう雰囲気がありありじゃん!」

 レムはまるで王雀の事など目に入っていないという様子で、〈 ニコニコ 〉と言うより〈 ニカニカ 〉と派手に笑っておどけて見せる。
 そんなレムのふざけた態度に業を煮やしたのか(グガァバァドォーーー!)と、けたたましく咆哮する王雀に、レムの視線が改めるようにして向けられると、レムは驚きの声を上げるのであった。

「こりゃまた! 王雀なんて偉いもん相手にしてるなぁ! しかもこの王雀、元素タイプが火だね。鳳凰や朱雀なんかと同格以上の神鳥だよ!」

 目の前の王雀の姿を当たり前のように語るレムに、バネッサはまるで驚きもしなかった。
 それは自分よりも遥かに長い時を生き経験を積み、そして遥かに広く多くの知識と能力を持つレムに、全幅の信頼を置いているからである。

「レム、あなたは王雀の真の姿が火の鳥だって知ってたのね?」
「もちろん知ってたさ! バネッサが言うこの火の鳥なんだけど、正確には
王火雀おうかじゃく 〉って呼ばれてるんだよ。王雀の元素タイプは個体によって違いがあってね、火の他にも数種類存在する。もちろん元素タイプを持たない、ふつ~の王雀も存在するよ」

 レムの語る初めて耳にする話に、バネッサはただ頷いている。

「稀に全ての元素タイプを有した特異種ってのがいるんだけどさぁ、もしもその特異種が相手だったなら・・・」
「だったなら?」
「・・・うーん、やばかったよね!」
「ッフフフ」

 バネッサが思わず笑ってしまったのは、レムはどんな状況に置いても、こんな風におどけた調子なのだからであろう。
 そんな緊張感などとは程遠い存在であるレムに対して、バネッサが真顔で口を開くのであった。

「あなたからの緊急アクセスがあって、本当に助かったわ」
「そりゃどうも!」と、バネッサにニカニカと笑って答えるレム。
「しっかし、バネッサもよくやるよなぁ~、並みの術者なら俺達を呼ぶ前にバラバラにされて飲み込まれてるよ!」

 レムは心配の素振りなど微塵も感じ取れない言葉を吐くと、改めて王雀の状態に注目するのである。

「・・・バネッサ。分かっているとは思うけど、もう捕獲は無理だよ」
「えぇ、消滅させるしかないようね」

 そんな2人のやり取りが聞こえているのか、王火雀が口を開くのであった。

「人間の小娘が、まさか〈 閻魔の駒 〉を呼び寄せる事が出来たとはな・・・」

 王火雀はレムがどのような存在であるかを知っているのか、その口調からはあからさまに悔しさが感じらるのであった。

「駒とは随分な言い方だねぇ、自分は雀の化物なくせして!」

 王火雀に閻魔の駒と呼ばれた事が気に障ったのだろう、レムはおどけた口調で嫌味を言って返してやるのだった。
 が、そんな軽い調子のレムの口調が一変、場の空気に緊張を走らせるようにして王火雀に宣戦する。

「王火雀よ! 閻魔様の朝食にでもなるかい!?」

 レムは腰に携えている刻印の剣の柄を機巧化された右手で握ると、そのまま勢いよく鞘から引き抜いた。

「さぁ、この闘いに幕を引くよ。バネッサ」
「えぇ」

 それはレムが素早くバネッサの背後へと回り込み、抜き身の剣をバネッサの右肩の上に静かに乗せたかと思った矢先の事である!?

「印道術者バネッサ・アークシールよ。浅近の儚き力を受け取るがいい・・・」

 なんとレムは自らの持つ鋭利な剣で、背後から一突きにバネッサの心の臓を貫くのである。
 刃に貫かれた瞬間、バネッサの体がビクリと一瞬震えて強張るのであった。
 しかし不思議な事に、バネッサの胸部から飛び出しているはずの剣先が何処にも見当たらない。
 深く突き刺されているはずの剣身は、まるで肉体に吸い込まれてしまったかのようである。
 その状況の中で、すっかりとニカニカ笑み消し去ったレムが、生身である左目をゆっくり閉じると、静かに詠唱を始めるのであった。

「黒き炎と白き炎が無邪気に戯れる時、古の堕天の王が深くて遠い眠りに就く。天と地の狭間で白銀の矛と黄金の盾が交わる時、そこに大いなる混沌が産声を上げるであろう。祈りを止めろ、怒りに委ねよ、誇りを捨てろ、そして望みを諦めよ」

 ここでレムの詠唱を耳にした王火雀が過敏に反応を起こす。
 王火雀は咆哮と共に巨大な翼を広げると、その場で羽ばたき炎熱の刃と衝撃波を猛然とバネッサとレムへと放つのであった。

 レムの詠唱の最中、バネッサは胸部から糸で引き上げられるように上体を反らせ、まるで無重力な状態でふわりと力なく爪先立ちとなって行った。
 迫り来る王火雀の攻撃を無視して、されど機巧化されている右目は王火雀の動きを捉えながらに、レムは詠唱は続ける。

「黄昏時の浅くて近い眠りからの覚醒。暗黒の花園で血と肉を捧げよ。明白の楽園で骨と魂を掲げて契を結べ。神々が恐れ忌み嫌い背を向ける、その偉大なる醜き影を此処に引きずり出せ。約束の地で眠る十の王、その儚き力を吐き出し置いて逝け」

 目前に迫る王火雀の攻撃に、左目を見開くレムがニカニカの笑みを浮かべる。
 そして、術による肉体への負荷が大きいのであろう、バネッサの口の端からはツーと血が滴り落ちて行く。
 そんなバネッサが虚ろな目で王火雀を見据えると、血を吐き出すようにして、ハッキリと口を開くのであった。

十 王 凱 旋じゅうおうのがいせん

 それは強烈な落雷のような音と共に、バネッサの左前方の空間に亀裂が走り硝子のように砕け散った刹那の出来事であった。
 王火雀の放った炎熱の刃と衝撃波が、バネッサの左腕が素早く前方へ持ち上がったと同時に、大きな破裂音と共に消滅したのである。

 バネッサとレムの視界を大きく遮るようにして現れ、王火雀の放った炎熱の刃と衝撃波を掻き消したのは、巨大な左腕であった。
 白色に輝く炎のような光が、どす黒くオドロオドロしい巨大な左腕から湧き上がるようにして揺らめいている。
 風穴のようにポッカリと開く空間の裂け目から伸びる左腕、その左手は王火雀の全長よりひと回りも大きく巨大なものであった。

 この左腕は虚ろな目をしたバネッサの意思で動いているのだろうか、王火雀を探るように妖しく動く左手が、既に上空高くに飛び上がっている王火雀に向かって構える。
 大きく翼を広げた王火雀は、上空から勢い良く滑空飛行を行い、炎熱の刃と衝撃波を第2波、3波と繰り返し放ちながら自身も突撃して来るのであった。

 際限無く降り注ぐ炎熱の刃と衝撃波を、巨大な左腕が次々と掴むようにして掻き消して行くのだが、その全てには対象出来ないでいた。
 その隙を王火雀が見逃す筈も無く、巨大な左腕を掻い潜る事に成功した時、再び強烈な落雷のような音と共に空間が割れ、風穴から今度は巨大な右腕が現れ王火雀を捕らえ様とするのである。

 「・・・!?」完全に不意を付かれたのか、王火雀の燃え盛る目がギロりと巨大な右腕の動きを捉える。

「小賢しい! その程度の動き、当然の如く読んでおる」

 新たに出現した巨大な右腕をも難無く掻い潜る王火雀が、バネッサとレムの目前へと到達する。
 そして、巨大な両腕を掻い潜った王火雀が、バネッサとレムの前に悪夢のようにそびえると、自身が激しく燃え盛る炎熱の旋風となるべくして体を大きく捻って行くのであった。

「これが、結末である」

 終焉を告げる王火雀が、捻りを解放し勢い良く鋭い炎熱の旋風となって、バネッサとレムを飲み込んだ。

 ・・・はず、だった!?

 王火雀が、新たに出現した3本目の巨大な腕、その左手にガッチリと捕らえられているではないか。

 「・・・なにぃーーー!?」

 勝ちを確信していた王火雀が、まるで状況を理解できずに、混乱の中で叫んだ。

 王火雀を捕らえた巨大な左手が、容赦無くグイグイとその炎熱の体を締め上げて行く。
 王火雀は凄まじい咆哮と共に激しくもがくが、その巨大な左手はまるでびくともしないのであった。

「どうだい王火雀? 〈 十王じゅうおうの左手 〉に握られた気分は!? 最悪だろぉ?」

 そう言うレムは相変わらずのニカニカな笑みだった。

「おのれェーーー!!」断末魔の声を上げる王火雀から、周囲に激しく炎熱が放たれると、その炎熱が全長2メートル程の鳥に模られて行く。
 王火雀の炎熱によって誕生したのは、3体の火雀であった。
 鋭く高い鳴き声と共に、3体の火雀が虚ろなバネッサを攻撃しようとした瞬間!? 凄まじい爆発音と共に大地が激しく揺らぎ、闘技場に巨大な足型の窪みが出来上がるのであった。

 上空にある空間の裂け目から踏み下ろされたのは、巨大な十王の右脚であり、3体の火雀は瞬く間にその右足によって踏み潰されたのである。
 王火雀は脱出不可能である十王の左手に捕らえられ、もがくも完全に打つ手を失ってしまい呟く。

「・・・馬鹿な、この術は一体、何なのだ!?」

 ミシミシと十王の左手に締め上げられて行く王火雀の姿が、浄化されるようにして次第に薄れ始めて行く。

「神鳥であり火王たる余が、人間の小娘なんぞに滅せられるのか・・・」

 そう王火雀が嘆くように、消え入りそうに小さく呟いた。
 そんな王火雀に対し同情でもするかのように、真顔のレムが目を瞑りながら言葉を出す。

「王たる者に、嘆きなんてのは、似合わないよ」

 十王の左手に握り潰されるように、吸収されて行く様にして、遂に王火雀の姿が、この世界から完全に消失するのであった。
 そして王火雀の消失と共に、3本の巨大な腕と、1本の巨大な脚もまた、空間の裂け目に引きずり込まれる様にして、静かに消えて行ったのである。







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