ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー  ×  ナ イ ト ラ ン ド

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 雨が弱まりつつあるのは降り止む兆候なのか、それとも嵐の前の静けさを演出しているだけなのだろうか、気まぐれな空模様はひとまず小雨で落ち着きを取り戻すここ闘技場。

 1人の蒼天の騎士隊員が、無残にも切り落とされた剣一の右腕を手に持ち、意識を失う剣一を介抱しているもう1人の騎士隊員の元へ歩み寄りながら言葉を掛ける。

「おーいコール、すごく綺麗な切断面だよ。さすがは副隊長、これなら元通りにくっ付くだろうね」
「そんなの当たり前だろアッシュ。その腕を切り落としたのは蒼天の騎士隊三頭さんがしらの一角、我らがバネッサ姐さんなんだぜ」

 剣一と年の頃が同じぐらいである2人の騎士隊員、コール・モディライトとアッシュ・スイングリーが、バネッサの指示を受け剣一を闘技場から超帝国騎士団に属している救護隊へ運び出そうとしていた。

 ウェザー騎士団にも医術や精霊術などを扱える騎士は多く在籍しているが、表立って回復術を専門とする機関・部隊は存在しない為、今回のように何かしらの治療が必要な際には超帝国騎士団の救護隊の世話になる事が常である。
 実はこのように救護隊以外にも、皇帝直属の組織であるウェザー騎士団が、細かい所で超帝国騎士団に依存している物事は多くあるのであった。

 コールは剣一の左腕を肩越しに取りながらくるりと背を向けると、そのまま剣一の身体を担ぎ上げた。
 そして、息が掛かる程そばにある剣一の顔を横目に、アッシュへ感嘆の言葉を漏らすのである。

「こいつ、俺達と同じぐらいの年だって言うのに、バネッサ姐さんや先任騎士とあれだけやり合えるなんて・・・ とんでもなく凄い奴だな」
「だね。僕やコールじゃ、絶対に歯が立たないだろうね」
「俺達も負けてらんねぇけど、これからは蒼天の騎士として、こいつは俺達の仲間だ」
「頼もしい限りだよね」

 剣一の実力を改めて称える若き2人の騎士の表情は、生憎の天候の中であっても晴れ晴れとしたものであった。

 こうして波乱の〈 入隊許可儀式 〉は幕を閉じ、闘技場に残る騎士隊員達も剣一の戦いっぷりを賞賛しながら思い思いに談笑している。
 先程まで繰り広げられていた激闘での緊迫した空気が、まるで嘘であったかのような和やかな時間が闘技場には流れていた。
 しかしそんな束の間も、再び激しさを帯び始めた風雨と、これから起きる荒ぶる現実によって容易に打ち砕かれるのである。
 平穏の破壊者の正体は、禍々しいまでのオーラを放ち出した一振りの剣であった。

 突如として騎士隊員達の視界が大きく揺らぎ、その全身に緊張が走る。
 闘技場を覆う程の眩い閃光と、雷鳴を凝縮したかのような空間を切り裂く轟音が、騎士隊員達の肉体の芯に衝撃を与えたのだ。
 すぐには状況を理解出来ずに、何事かとどよめく騎士隊員達。

 雨でぬかるむ闘技場の大地に、深々と突き立てられた天地清浄流の剣が、剣一が生きたあの世界の、あの清が音中学校の武道館での惨事の時のように、赤紫色の光を放ち出したのである。
 剣の周りに何か古代文字のような物が浮かび上がると、それは列を成して螺旋状にゆっくりと回転を始めた。
 そして光は次第に強さを増して行くと、急速に剣全体を覆い眩いばかりになる。

『・・・・・・!?』

 闘技場に居合わせる騎士隊員達の誰もが、余りの眩しさに一様に目を細めながら剣へ視線を送っている。
 赤紫色の光が降り頻る雨粒に反射して、まるでこれから悪魔かはたまた魔神でも召還されるのではないかという雰囲気を闘技場に演出していた。
 剣を目の前にし、その霊妙な空間に立ち尽くすバネッサの顔からは、先程までの安堵の笑みは完全に消え失せている。

「・・・こ、これは!?」

 バネッサの声色には、あからさまな緊迫感が含まれていた。
 そして急かすようにして、2人の若き騎士に声を飛ばす。

「コール、アッシュ。剣一の事を頼むわ!」
『はい!』

 バネッサの指示に即答する2人は、光を放つ剣から距離を取ろうと逃げるようにして、気絶している剣一を運び出すのであった。

 剣一をコールとアッシュに託したバネッサは、再び勢力を盛り返した雷雨の中、妖しく赤紫色に激しく輝き続ける天地清浄流の剣と静かに対峙している。
 険しい表情で剣を観察するように睨み付けるバネッサが小さく口を開いた。

「明らかに封印術が施されている。剣一の暴走の原因はこれね。それにしても剣に封印術を施すなんて、何か余程の事でもあったのね」

 独り言のように呟いたバネッサの言葉にランブレが反応した。

「俺は隕石への封印術で一度だけ目にした事があるんだが、この輝きと印式は閻魔印えんまいんなんじゃないのか!?」

 唾を飲み込みながら吐き出したランブレの言葉に、リンネとフロッグマンが続いた。

「剣への封印術など初めて見るが、私が記憶する閻魔印にも酷似している」
「うむ、言われれば閻魔印だと思われる封印式じゃ。しかし・・・ 何か違和感を感じるのぉ。バネッサや、印術師であるお主の見解はどうなんじゃ?」
「・・・そうね。確かに本来の閻魔印とは何かが違うわ。閻魔印は闇そのものだと言われる究極の印式。だけど目の前の印式には、まるで血液でも通っているように感じる」

 バネッサが天地清浄流の剣に現れた封印式に対して、何か府に落ちないといった表情で注視しているその時だった!?
 剣を覆う赤紫色の輝きが、急激に膨れ上がり一層強さを増して行く。

「・・・!? 下がって!」

 異変をいち早く察したバネッサの声と同時に、フロッグマンとランブレ、リンネの3者が剣との距離を置くために大きく跳躍し退く。
 先程まで3人が立っていた地点が、一部の飛散した光の塊で蒸発したかのようにえぐられている。
 1人退かなかったバネッサは、3人に指示を出しながら鞘から自身の剣を素早く抜き去ると、天地清浄流の剣に対して既に臨戦態勢で身構えているのであった。

「どうやらこれは二重封印。何らかの封印式の上から更に閻魔印が施されているようね。それも不完全な閻魔印が!?」

 鋭さを帯びたバネッサの視線の先、天より降り注がれる雨粒が膨れ上がった赤紫色の光に触れる度、激しい蒸発音と共に蒸気を上げていた。
 そして剣から放たれる光は、まるで生き物のようにウネウネと動き出すと何かを形作って行く。

「さぁ、一体何が出てくるのかしら・・・」

 バネッサは微笑とも苦笑とも取れない表情をしていた。
 不規則にうねっていた光はみるみる内に一箇所へ集束され、巨大な鳥の形をかたどって行く。
 そこに現れたのはバネッサが予想だにしなかった封印式だった。







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