ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー  ×  ナ イ ト ラ ン ド

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 太陽の光が流星となって降り注ぐように大地を照らし、その光の束を駆け上るようにして積乱雲が勢いよく立ち昇る青空の下、片手に剣を携え重い足取りで力なく歩く1人の青年がいる。
 年の頃は15、6歳だろうかオレンジと黄色が入れ混じる派手な髪色のツンツン頭が、青年のヤンチャそうな性格を連想させていた。

 ここは東西南北360度、見渡す限りが砂で覆われた広大な大地。
 アークシール超帝国の領土内南方の一部に広がる大砂丘〈 サウザンズ・サンド 〉である。

 青年はもう何時間歩いているのだろうか。
 先程まで額や頬を伝っていた汗も今はもうカラカラに乾いてしまっている。
 疲れ果て肩からダラリと垂れ下がった手には剣が握られているのだが、鞘の先端を地面に引きずる状態で歩いて来た為、青年の後には足跡と共にウネウネと蛇行した線状の跡が延々と続いていた。

「ぁ~あっ、やってらんねぇーなぁ~!」

 青年は溜め息混じりの疲れ果てた声を上げると、その場にピタリと立ち止まってしまった。
 そして空を仰ぐと突然大声で喚き出すのである。

何処どこだよ! こ、こ、っわ!」

 叫ぶというよりも怒鳴りながら激しく地団駄を踏む青年。

「・・・・・・」

 流石に歩き疲れたのだろうか青年は黙り込んでしまうと、糸の切れたマリオネットのように脱力して座り込んでしまった。

 熱風とまでは行かないまでも暖かい風が柔らかな音で吹く空間に、大地が目でも回したかのような音が砂丘中に響き渡った。
 その音の正体は、余りの空腹で青年の腹の虫が派手に騒ぎ出したものだった。

「ぁ~あ、腹減ったぁ・・・」

 もう声を出す力も無いのか、うな垂れる青年は弱々しく呟くのであった。

 時より風に吹かれ巻かれる砂々は、疲れ果て座り込んでしまった青年の事など気にも留めずに、まるで手と手を取り合っているかのように愉快に舞い踊っている。

「冗談じゃねぇよ・・・」

 座り込んだままの青年が無表情に無感情で呟いたが、次第にその顔色が熱を帯びて行く。
 そして両肩が小刻みにワナワナと揺れ出した矢先、青年は咳を切ったように叫び出すのであった。

「だいたい、あいつら一体なんだったんだよ! 昼飯時に突然現れたかと思ったら大暴れしやがって!」

 興奮しながら声を上げる青年、次第に剣を持つ手に力が入って行く。

「4人は返り討ちにしてやったけど、親玉みてぇな黒い鎧の奴には逃げられちまったし!」

 何か余程に腹の立つ事でもあったのだろう、すっかり力尽きていた筈の青年の感情がみるみる内に高まり沸点を超えて行く。

「目の前がチリチリと光に包まれたと思ったら、今度は可笑しな浜辺に倒れてるしよー!」

 言葉の止まらない青年、剣を持つ手により一層力が込められる。
 その余りの強さに握られた剣の鞘から悲鳴でも聞えて来そうな程だ。
 そして青年は一人怒鳴り散らしながらその場に立ち上がった。

「意味分かんねぇから、取り敢えず近くに見えた街らしき所を目指したってのに、何でこんな所にいるんだよぉ!!」

 怒りの収まらない青年は、自らの方向音痴を思い切り棚に上げ猛然と叫びながら走り出す。

「くっぅそぉぉーーー!!」

 青年は風に舞う砂を切り裂くように、勢い良く駆けて行くのであったが派手にバランスを崩してしまう。

「・・・っなぁっ」

 勢いも虚しく、青年は何やら砂丘から顔を覗かせている石のように見える物体につまずくと、そのまま頭から砂に潜り込むような形で転倒してしまった。
 唐突な出来事に一瞬固まってしまう青年だったが、儀式のように粛々と砂の中から頭を持ち上げる。
 呆然としてくうを見詰める青年の目は、まさに死んだ魚の目そのものだった。

「・・・何だよ、何なんだよぉ! ちくしょぉーー!!」

 疲れ果て腹を空かせていた事に加え、砂を頭からまともににかぶってしまった青年の怒りは頂点へ。
 青年は被った砂も払わずにすぐさま立ち上がると、鬼の形相をしながら蟹股がにまた歩きで石のように見える物体に歩み寄って行く。
 そして八つ当たりとばかりに、砂丘の出べそのような物体を思い切り蹴り飛ばしてやるのである。

「・・・!? 何、これ?」

 物体の適度に柔らかく弾力のある予想外の感触に、青年は怒りを忘れたようにキョトンと不思議そうな顔をする。
 首を傾げる青年はその感触で遊ぶように、剣の鞘の先端で突っ突いてみるのだが物体には何の反応も無い。

「う~ん・・・」

 どうやら青年はこの物珍しい物体にすっかり御執着の様子だ。
 そしてしばらく間、青年は考え込むようにして黙り込んでしまう。

 青年が沈黙して静かになった砂丘、辺りに聴こえるのは波音のような砂の転がる音だけ・・・

 突然、砂の波音が激しい滝の轟音へと変化した。
 青年の目の前の謎の物体を中心にして、砂が噴水のように数十メートルの高さまで勢いよく吹き出したのだ。

「っどわぁ~!!」

 驚きの声を上げながら背面に飛び回避する青年。
 激しく吹き出し舞い上がった砂と共に、全長が20メートル以上はある蛇のようなミミズのような、随分と太くて長い巨大生物が現われたのだ。
 青年は目を見開きその巨大生物を凝視する。

「なぁんじゃこりゃーー!? でけぇー! でか過ぎだろ!」

 巨大生物が口から唾液なのか粘液のようなものを垂らしながら、獲物を狙う凶悪な目で青年を睨んだその時。
 またもや大地が目を回したかのような、砂丘中に響き渡る腹の虫の音。
 驚く事に腹の虫の出所は獲物を目の前にした巨大生物のものではなく、捕食対象であるはずの青年のものだった。
 青年は先程までの怒りもすっかり忘れ、瞳の中の星々を輝かせながら嬉しそうに舌なめずりをする。

「こいつ、食えるかな!?」

 青年の剣を握る手の力の根源が、怒りから食欲へと変わっていく。
 こんな得体のしれない巨大生物を食べようなどと考えるのは、おそらく世界広しと言えどこの青年ぐらいなものであろう。

 食料を目の前に青年がニヤリと口元を緩めると、巨大生物が獰猛どうもうな牙を向き出しに猛然と襲い掛かって来る。
 そんな巨大生物に対して青年も臨戦態勢に入るのである。
 青年は全身を脱力すると体勢を低く沈め、いつでも抜刀出来るように剣を握り直し構えた。
 そして瞬く間に次の動作へと移行する青年。
 ジェットエンジンでも吹かしたような地面への爆発的な踏み込みにより、大量の砂が数十メートルに及び舞い上がる。
 舞い上がった砂が上空から降り注ぐ中、巨大生物を真正面で迎え撃つ形で前方に大きく跳び上がった青年は、鞘に収まる剣の柄を握る右手に力を込めながら、意気揚々と口を開くのであった。

「自分で言っちゃうけどさぁ! 俺、ぐっしゃぐしゃぇぜっ!!」

 青年は微塵の無駄も無い動作で、巨大生物に目掛け鞘から勢い良く剣を抜き去る。

「派手に登場したとこわりぃーんだけど」

 陽光を反射して輝く砂々が舞い降りる中、巨大生物へと斬り掛かる青年のその姿は、まるで芸術だと思わず声を上げたくなる程に美しい、空中での居合いあい

「覚悟しろよっ! 俺の昼飯ーー!!」







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