角 ノ 覇 王 と 鋼 鐵 ノ 姫
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武器類などを製作する際に使用される素材には、全てに格付けがなされている。 中でもナイトランドにおいて、最高の素材として格付けされているのが、特級素材と呼ばれるものなのだ。 ナイトランドには希少価値の高い素材として、オリハルコン、アダマント、ミスリル、ヒヒイロカネなど、その他にも数多くの伝説や架空と言われる金属が実在するのだが、これらは特級素材としては扱われていない。 ナイトランドで特に刀剣の素材として高価で主流となっているのは玉鋼であり、その玉鋼の中でも特殊で特別な種類の物が、特級素材として広く流通しているのである。 そんな特級素材の一つとされる玉鋼白道で作られた刀剣と甲胄を前に、将軍の驚きが覚める気配は一向になかった。 何故ならば、将軍が目にしている刀剣と甲冑は、どちらもこの世界には今までに存在しなかった代物だからである。 そんな驚きで口を大きく開けたままの将軍を余所に、エンブラは一体何処から出したのであろうか、畳まれている一枚の煌びやかな布を将軍に差し出した。 「大将軍閣下、これをどうぞ」 「っん? これは何だ、マントか!?」 将軍がエンブラから受け取り広げたマントは、黄金色が地になって見える物であったが、実に奇妙な色合いを見せていた。 このマントもまた、エンブラの刀剣と甲冑と同様に、今までのこの世界には存在しなかった代物である。 将軍が手にするフードと一体化しているマントは、見る角度によって色が変化する多色性と、光源が変わることで色が変わる変色効果という二つの特別な性質を持つものであった。 「そちらのマントは大将軍閣下への感謝の気持ちにと、ドワードの職人が特別にこしらえた物です」 「そうなのか」 「はい。彼等の最高技術をもってして作られたマントには、 「へっ・・・!?」 「玉鋼金剛が編み込まれております」 「はぁーアァーーー!?」 面食らう将軍にエンブラが二度目の説明をすると、将軍はただただ信じられないといった様子で、溜息のような感嘆の声を上げるのであった。 マントに編み込まれているという玉鋼金剛は、玉鋼白道と並ぶ特殊素材の一つである。 玉鋼金剛は主に、 加工が極めて困難である玉鋼金剛を繊維状にし、マントに編み込むなどという技術は、ナイトランドを含めた大世界では例を見ない事なのであった。 将軍は信じられないと言った表情で、そんな希少なマントをペタペタと触りながら、エンブラへと問い掛けるのである。 「ドワードの連中は、こんな事まで出来るのか!?」 「はい。彼等ドワードは大将軍閣下の為ならば、どんなに無理難題な品であろうとも、必ずや作ってみせる事でしょう」 「ブッぷぷぷ、そうかそうか!」 エンブラとの再会から初めて見せる将軍の笑みは、大変に満足気なものであった。 将軍は早速とばかりに、自身の為に新調されたマントを試してみる事にするのである。 将軍は今まで羽織っていたボロボロのマントをエンブラに手渡すと、万歳でもするように勢い良く両手を挙げて、新たなマントを豪快に羽織ってみせた。 そして、今までのマントには無かったフードを被ってみるのである。 まさに将軍の為に作られたマントのフードには、将軍自慢の角が出せるように二つの穴が開いていた。 自由自在に自身の角を消失させたり生やす事の出来る将軍は、今までの角に代わる新たな角を、フードに開いた二つの穴から器用に出してやるのであった。 新たなフード付きのマントを羽織った将軍の頭部に生える二本の角は、左側は前回とまったく同じ形状であり、美しい弧を描き前方に渦を巻いて伸びるものである。 しかし、どうした事であろうか、右側の角に至っては、エンブラとまったく同じ状態で折れているのだ。 虹色に輝くゴツゴツと角張った将軍の角は、左右こそ逆となっているが、エンブラの純白の二本の角とまったく同じ形状をしている。 二人の頭部に生える二本の角は非対称なものだが、将軍とエンブラが向かい合う事によって、その意味が大きく様変わりする。 無惨に折れた角を互いに補っているかのような図柄は、永世桜の巨大な花びらが舞う中、実に美しいシンメトリーを奏でているのであった。 将軍の角を見る憂いに満ちたエンブラの目は、無意識の内に涙で潤み弱々しく輝いている。 自身に合わせ折られている将軍の角の意味を、エンブラは今さっきの出来事のように思い出していたのだ。 唇をキュッと閉じるエンブラは、憂いを振り払うようにして目を瞑ると、再び目を開けた時にはすっかりと憂いは消え去っていた。 唐突に将軍の後ろの空間が歪んで行く中、気を持ち直したエンブラが、いつもの調子で将軍に声を掛ける。 「大将軍閣下、マントの着心地は如何でしょうか?」 「そうだな、今までのマントの中でも一番しっくりとくるな!」 「そうですか、それは良かったです。では、マントの強度も試されてみますか?」 「っん? 強度を試すって、どういう意味だ?」 「はい。そちらのマントは、キキスケールが低級位程度であれば、魔鬼の牙や爪はもちろんの事、魔鬼の強靱な角でさえ貫く事は適わない強度を誇っております」 「・・・なんてこった!?」 感情の起伏が豊かな将軍の反応に、エンブラは楽しそうに微笑んではいるが、その琥珀色をした瞳には、空間の歪みから現れ将軍の真後ろに立つ一体の魔鬼の姿が映し出されていた。 エンブラの瞳に映る全長一五〇センチ程の魔鬼の姿は、とてつもない視力を持つ将軍の七色の虹彩をした目にも、ハッキリと映し出されているであった。 自身の真後ろに一体の魔鬼が現れた事を知る将軍に、エンブラが再び確認の声を掛けるのである。 「大将軍閣下、どうされますか?」 「よしっ、試してみるか!」 そう将軍が威勢良く宣言をするのと同時に、魔鬼の凶悪な牙と爪が一切の容赦もなく将軍へと襲い掛かった。 魔鬼の牙はフードを被る将軍の頭部に、魔鬼の両手の爪は将軍の小さな体へと鋭く突き立てられている。 今までのマントであれば、間違いなく将軍は無事ではいられなかったであろう。 しかし、玉鋼金剛が編み込まれているマントは、魔鬼の凶悪な牙も爪もまったく通す事は無かった。 自身の体が傷一つ負っていないと分かった将軍は、勝ち誇ったように嫌らしい笑みを浮かべる。 そんな余裕を見せる将軍へと、更なる攻撃が左右から鋭い衝撃と共に襲うのである。 新たに出現した二体の魔鬼が、将軍の体を左右から挟むようにして、極悪な漆黒の角を突き立てたのだ。 二体の魔鬼による突然の追加攻撃にも、将軍はまるで動じる事も無く笑い出す。 「ブッぷぷぷ、流石はドワード達だ。衝撃すらもここまで押さえるのか・・・、これは実に素晴らしいマントだぞ!」 「はい、本当にそのようでございますね」 魔鬼の強靱な角による一突きをも通す事の無いマントに、将軍とエンブラは大変にご満悦の様子である。 そして、にこりと微笑むエンブラは、大地に刺した自身の白刃の大剣を素早く手に取ると、瞬く間に将軍に絡む三体の魔鬼を切り伏せるのであった。 絶命し黒色の煙と共に蒸発する魔鬼が、鬼豊石を残して消えて行く。 降り積もる永世桜の巨大な花びらの上には、将軍を喰らい損ねた魔鬼の分も含め、四つの鬼豊石が転がっている。 大きさや形は違えど、どの鬼豊石も石炭のように黒光りしているものであった。 将軍は転がる四つの鬼豊石に目をやると、その一つを無表情で拾い上げるのである。 「これは売り物にならないハズレだな。こういうのを二束三文にもならないって、確か 「では、その鬼豊石はどうされるのですか?」 そうエンブラに聞かれた将軍は、なぜそんな事を聞くのか?と、一瞬不思議そうな表情を見せながらも、手に持つ鬼豊石をジッと見ている。 「塵も積もれば山となって、山も連なれば山脈となるんだ。あたしは一 「そうですよね、大将軍閣下」 予期していた将軍の言葉に、エンブラは妙に嬉しそうに頷くのであった。 微笑むエンブラの心情など気にも留める事の無い将軍は、手に持つ鬼豊石を宙に投げると、姿の見えない仲間へと威勢良く声を掛ける。 「おぉーーーい! いつまで遊んでるつもりだギギちゃん! 仕事だぞ、鬼豊石を回収しろ!」 「ギギギッ、ギッギッ、ギィー!」 将軍が魔鬼に襲われた時も、エンブラが現れてからも、ギギはずっと降り積もる永世桜の巨大な花びらの下で遊んでいたのだ。 そんなギギが将軍の声を受けると、降り積もる花びら下から勢い良く跳び出てくる。 そして、将軍の投げた鬼豊石を宙空で喰らったギギは、そのまま花びらの上に転がる三つの鬼豊石も喰らい回収して行くのであった。 支え合うようにして伸びる二本の巨大樹である永世桜の下、オテント隊の三人が居る周域の空間が次々と揺らぎ歪んで行く。 生暖かい不穏の風が、絡み付くようにして三人の頬を撫でると、エンブラは真剣な表情で将軍へと告げるのである。 「大将軍閣下、そろそろお時間です」 「そうだな、分かった。あたしは既に先行しているプリオちゃんを追うぞ。エンブラちゃんなら、一人でも対処出来るな?」 「はい、もちろんです。何の問題もありません」 「よし。鬼豊石の回収役には、ギギちゃん二号を置いて行くぞ」 ギギは将軍の言葉に反応すると、すぐに口を開けて金属の破片を幾つも吐き出すのである。 吐き出された金属の破片は、カタカタと勝手に動き出すと、あっという間に自動で組み上がって行く。 組み上がった金属の球体をした塊は、ギギよりも一回り小さい、ギギと瓜二つの機械生命体であった。 ただ一つの違いがあるとすれば、それは体の中央に埋め込まれている白銀だけである。 背が低くいつも見下ろされる事の多い将軍が、真剣な表情でギギ二号を見下ろしながら指令を発した。 「鬼豊石は一つ残らず全て回収しろ! 頼んだぞ、ギギちゃん二号!」 「ギィリ、ギィリ、ギギィーーー!」 ギギよりも少し高い声をしたギギ二号が、威勢良く両腕を挙げて将軍の声に応えるのであった。 鮮やかな桜の淡紅色が、見る見る内に魔鬼の漆黒色で染め上げらて行く様は、まるでこの世の終末でも示しているかのようであった。 裂けていた空間は、何事も無かったように魔鬼だけを残して正常な状態へ戻って行く。 この場で将軍が率いるたった三人のオテント隊は、すっかりと魔鬼の群れに取り囲まれている。 次々と咆哮を上げる恐怖の象徴の数は、優に百体を超えるものであった。 |
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