ド リ ー マ ー ズ ・ ラ イ ト  ×  ナ イ ト ラ ン ド

外  伝
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 争いの音に反応しただけなのか、巨大樹である永世桜の枝で羽根を休める角有り鳥の群れが、将軍とその背後から迫るレッドキャップをジッと凝視している。
 将軍は不意を突いて来るレッドキャップに気付いた時点で、適当に飛んで避ける事も出来たのだが、その選択を敢えて取ることは無かった。
 なぜなら、レッドキャップに放った意味深な言葉の通り、七色の虹彩をした将軍の目には、背後から急襲するレッドキャップの動きが、本当に手に取るように見えていたからである。

「角持ちが全てを見ているぞ、ゴブゴブゥ!」
「・・・!?」

 将軍は背後から迫る凶刃に臆すること無く、虹色に煌めく自らの角を盾に、勢い良くマント翻しながら反時計回りに振り返った。
 レッドキャップの振り下ろした刀剣が、将軍の頭部を切り裂いたと思われた刹那、将軍の左頭部に生える巻き角が振り向き様に刀剣を弾いていく。
 狙い澄ましていたかのように角で刀剣を弾いた将軍は、勢いもそのままに、右頭部に弧を描いて伸びる尖った角で、レッドキャップの心臓を目掛け一突きに貫いた。

「ゴ、ブ、ゴブッ・・・」という断末魔の声と共に、レッドキャップの生命活動が終わっていく。
 レッドキャップの絶命を確認した将軍は、その胸から右角を引き抜くと、大きく頭を揺り動かし角に付着する血を振り飛ばすのであった。

「ブッ、ぷ、ぷ、ぷ」

 大量の返り血を浴びて赤く染まる将軍は、不気味な表情を浮かべ笑っている。
 世界は残酷にして、無慈悲で溢れている事を体現する将軍の姿に、見慣れているはずのプリオもゴクリと喉を鳴らし唾を飲み込んだ。
 しかし、プリオは知っているはずであり、見て来たはずであった。
 相反する将軍の無情の優しさと、将軍よりも遙かに無慈悲で残酷な魔鬼マオニの存在を・・・
 
 この凄惨な光景を目の当たりにしていた数十匹のゴブリン達はと言えば、構えていた幅広の刀剣を手放し震えながら腰を抜かしている。
 あたかも恐怖で大地に縛られているかのような様では、この場から逃げ出す事もかなわないのだろう。
そんな中、状況を悪化させる合図であるかのように、将軍が仕留めたレッドキャップの肉体や流れた血液が、再び蒸発を始め勢い良く消えて行くのであった。

「将軍閣下、このレッドキャップもまた擬態した擬鬼モドキでしたね」
「こんにょヤロー、面倒な事になるぞ!」

 レッドキャップが擬鬼だったと確定したプリオの言葉に、将軍は焦りと苛立ちを全面に出しながら、残された乳白色の鉱物を睨んでいる。

「その鬼豊石きほうせきも蓄えておけ、ギギちゃん」
「ギギッ」

 将軍に指示されるままに、ギギは体の一部を口のように大きく開けると、鬼豊石を丸ごと体内に取り込むのであった。

(バッサァ バサァ バサァ バサァーー)

 聞こえて来たのは、永世桜から響く慌ただしい鳥の羽音でる。
 これからやって来る只らなぬ危険を察知したのか、角有り鳥の群れが一斉に青空へと飛び立って行ったのだ。
 それを横目にする将軍が咳払いをすると、改まった口調でプリオとギギに声を掛けるのである。

「よしっと、それじゃあ、二人とも・・・」

 まったくの平然を装う将軍であったが、見る見るうちに苦虫を噛み潰したような表情へ変わり果てると、小さな体をいっぱいに使って咆哮を上げるのだ。

「全力てっしゅーー!」
「はいっ!」「ギギギィー!」

 緊急的にこの場からの撤収を宣言して走り出す将軍に、何の疑問も挟むこと無くプリオとギギは将軍の命令に付き従って行く。
 ギギは飛び跳ね将軍のマントの端に掴まると、プリオも一足飛びで荷車へと駆けては、力の限りにそれを引くのである。

 脱兎の如く一目散に撤収を開始する三人の姿に、未だに腰を抜かしているゴブリン達は、何事かと戸惑う事しか出来ないでいるのであった。
 そんな怯えるゴブリン達に構うこと無く、先行するプリオを必死の形相で追う将軍であったが、将軍は重要な場面ではいつもやらかしてしまうのである。
 短い足の将軍はゴブリン達が落とした刀剣の柄につまづくと、宙を飛ぶように勢い良く転倒してしまうのであった。

「ゲブッ!」という声を上げ転倒する将軍の姿は、もはや愛嬌とも呼べるものであった。
しかし今回ばかりは、その愛嬌が命取りとなるのである。
 転倒している将軍の周囲の大気が、数回に渡って鼓動を打つように目に見えて波立つと、それは忽然と現れたのである。

 将軍の目の前に現れたのは、将軍の体の何十倍もある魔鬼マオニの巨大な口であった。
 異様なまでに巨大化した頭部の大半が口であり、目鼻や耳は見当たらないが、口の上方には黒色の大きな二本の角が生えている。
 巨大な口を持つ頭部に比べ、魔鬼の特有でもある黒々として硬く分厚い皮膚で覆われた体躯は、実に不均衡なまでに小さなものであった。

 そして今まさに、何十本もの鋭い牙を剥き出しにした魔鬼の巨大な口が、将軍を丸呑みにしようと覆い被さるようにして倒れ込んで来るのだ。
倒れた姿勢のまま魔鬼に目を向ける将軍であったが、忽然と現れた巨大な脅威に対して、顔を引き攣らせ喰われまいと無意味に手を伸ばす事でしか、抵抗する術は無かったのである。

「本気でかー! いや違う、マジでかぁー!!」

 将軍は絶体絶命の窮地に陥ったにも関わらず、律儀にもプリオから教わった言葉を使い叫び声を上げるのであった。






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