ド リ ー マ ー ズ ・ ラ イ ト  ×  ナ イ ト ラ ン ド

外  伝
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 久遠の丘の頂も間もなく下りに差し掛かろうとしている場所は、草原の緑の絨毯ではなく、散り積もる花びらの薄紅色の絨毯に様変わりしている。
 一枚が縦二十センチにもなる大きな花びらを降らせているのは、お互いを支え合うようにねじれ絡まりながら伸びる、三百メートルは有ろうかという二本の巨大樹であった。
 五十センチ程の大輪の花を咲かせるこの巨大樹が久遠の丘の主であり、推定樹齢一万年を超える万年桜として頂にそびえ立つ永世桜えいせいざくらである。
 永世桜の周りには様々な動物が集まり、ナイトランドでは珍しくもない角を持つ鳥の群れも、枝々の上で羽根を休めて寛いでいるのであった。

 絡まる二本の巨大樹の間は筒状に空洞で往来可能な道になっており、プリオはそこを通過すべく一人荷車を引いている。
 巨大樹が生み出した自然のトンネルの中には、職務に励むプリオを出迎えるように、小さな六体の地蔵がにこやかな表情で並び立っていた。
 永世桜の花びらによる薄紅色の絨毯が広がり出してからというもの、将軍とギギはプリオから遅れる形で大きな桜の花びらと格闘中だ。
 舞い散る花びらが将軍の顔を覆う度に、将軍は鬱陶しいとばかり手で払い除けるが、花びらは間髪入れずに将軍の顔を何度も何度も襲うのである。

「いい加減にしろぉー!」

 遂に怒りだした将軍は、花びらを乱暴にはたき出すと舞い散る花びら相手に暴れ出す。
 将軍は一00センチにも遠く満たない寸胴の体で、飛んでは跳ねて捩ってと目一杯使い、自慢の虹色に煌めく角で舞い散る花びらを次々と切り裂いて行く。
 そんな暴れ狂う将軍の周辺では、散り積もった花びらの絨毯の中を右へ左へもぞもぞと波打たせながら移動しては、時より将軍と衝突しているのがギギである。
 この滑稽な寸劇は将軍とギギが久遠の丘に訪れた際、永世桜が咲き誇る時期に見られる名物となっていた。

 将軍とギギが繰り広げる寸劇を余所に、プリオは意気揚々として荷車を引き続けている。
 そびえ立つ永世桜を超えればその先は長い緩やかな下りになっている為、体力的にも精神的にも幾分か楽になるとプリオは考えていた。
 しかしプリオの妖精霊王国での初めての仕事には、予想だにしない邪魔が入るのである。
 荷車を引く腕に突然の負荷を感じると、プリオの足の動きが一気に鈍くなった。

「・・・あれっ? おも、い!?」

 改めて全身の力を入れ直すプリオであったが、どうにも重く感じられてしまう。
 車輪が石にでも引っ掛かったのか溝にでも嵌まったのか、それとも荷車自体に何か問題が起きたのか、色々と思考を巡らせても埒は明かない。

「これは、しょうがないっすね」

 一度荷車を止めてしまえば、余りの重量に再び動かすことが大変な事は分かっていたが、プリオは全身の力を緩め荷車を止める事を決断した。
 汗だくのプリオが疲れ切った体で、荷車が重くなった原因を探ろうとした時、答えはすぐに見付かる事となる。
 荷車は数十匹にも及ぶゴブリンの群れに取り囲まれ、三匹のゴブリンが荷車に乗り込み物色していたのだ。

 卑しい笑みを浮かべるゴブリン達は一二〇センチ程の身長で、浅黒い緑色の皮膚を持ち腰には抜き身で幅広な刀剣を携えている。
 群れの中でも一際目立つ存在が、深紅色で染まるよれたとんがり帽子を長い鼻の辺りまで被ったレッドキャップというゴブリンである。
 レッドキャップは種の中でも取り分け戦闘力が高く、目元部分の空けられた深紅色の帽子から覗く忌々しい眼光が凶暴性と残虐性をよく現していた。

 ゴブリン達は荷車に積まれた玉鋼白道を覆うシートを捲ろうとするも、シートに張り巡らされている封印術に弾かれてはギャアギャアと騒ぎ立てている。
 玉鋼白道に直接触れられる事はないと分かってはいても精霊王に届ける大切な商品であり、そもそもが強奪行為である事に穏健なプリオも流石に慌てずにはいられない。

「ちょ、ちょっと!? 何やってるんっすか!」

 ゴブリン達はプリオの制止を無視して今度は運び出そうとするが、此処にいるゴブリン程度の力では当然のように無理な話である。
 すると玉鋼白道の持ち出しは無理だと理解した一匹のゴブリンが、傍らに置いてある随分と使い古された年代物の鞘に収まる一本の刀剣に目を付け持ち出そうとするが、どうしてかこれまたピクリとも動かない。

「その刀剣に触れるなっ!」
『・・・!?』

 ゴブリンが持ち出そうとしている刀剣に余程の思い入れが有るのだろう、いつもは温厚で愉快なプリオが珍しく語気を荒げた。
 プリオの迫力に押され驚いた数十匹のゴブリン達は、腰に携える抜き身で幅広な刀剣を手にすると、醜悪な形相で次々とプリオを威嚇する。
 しかしそんなゴブリンの威嚇にもまるで動じないプリオの危惧は他にあった。

「ふざけてないで、すぐに逃げて下さい! こんな所を将軍閣下に見付かったら、問答無用で全員殺されちゃいますよ!」

 プリオの言葉にゴブリン達は互いの顔を見合わせると、こいつは一体なにを言っているんだとばかりに、下品な声色で一斉に笑い出すのである。

『ウギャッギャギャ!』『モドッキェキェキェ!』
「ブッぷぷぷ!」「ギギギィ!」
『・・・・・!?』

 ゴブリン達は今までにこのような反応を受けた事がないのだろう、いつの間にか荷車に追い付いていた将軍とギギに不気味な笑い声で返され露骨に戸惑いを見せていた。
 戸惑いを見せているのはゴブリン達だけでなくプリオも同じくである。
 大なり小なり関係なく大切な仕事を、オテント隊としての任務を邪魔される事を嫌悪し、普段ならばこの状況に激しく怒り狂うであろうはずの将軍が平然としているからだ。

「何をやっているんだ? こんにょヤロー」

 いかりっの微塵も無い将軍の声は、ゴブリンではなく真っ直ぐにプリオに向かって投げられている。
 拳を握りしめ何も言えずにうつむいているプリオの目は不安で細かく揺れ動いていた。






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